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COLUMN

温泉と修験道の里

閑話休題

 みなさまこんにちは。風光社グループ代表の細川です。

 このたび「飛鳥・藤原の宮都」が世界遺産に認定された奈良県。関西人が抱く奈良のイメージといえば、大阪のベッドタウンとか、大仏様と鹿だったりするのですが(個人の感想です)、温泉もかなりの実力の持ち主なのです。今回は奈良県の南部、紀伊半島の中心部にある天川村の洞川(どろがわ)温泉を紹介します。

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旅行会社のパンフレットに載っていたこの風景を、実際にこの目で見てみたい!と憧れてきた夜の洞川温泉。ようやく成就しました。

 ミステリー作家の内田康夫氏による、「天河伝説殺人事件」の舞台となった天川村。こちらの洞川温泉は以前から興味はあったものの、なにせ遠い。奈良県は南北、つまり縦に長い割に縦走する道路網が貧弱なので、なかなか足が向きません。ところがある日、名古屋のお友達とお酒を飲みながら「温泉へ行きたいね-」という話になった瞬間、この洞川温泉がひらめきました。酔っ払いが企画する旅の行先は、何がきっかけで決まるかわかりません。

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せっかくなので吉野に立ち寄り、「ひょうたろう」さんの柿の葉寿司を購入。常温でひと晩熟成させるのが鉄則なので、大切に持ち帰ります。
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地元の食材をふんだんに使った「ナラヤマソウ」のランチ。お味はもちろん、民家を改装したお店も、スタッフの対応もすべて素晴らしい!

 洞川温泉の成り立ちは、修験道と深く結びついています。1300年前、修験道の開祖である役行者(えんのぎょうじゃ)が大峯山(山上ヶ岳)を修行の場としたことから、そこに集う山伏の宿場町として栄えました。ちなみに、厳しい修行を通じて会得した力(法力)を使う山伏は、雨乞い、病気平癒、安産祈願、憑きもの落しの加持祈祷を通じて、当時の人々の悩みや苦しみを和らげるカウンセラーのような存在だったそうです。

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役行者の母である白専女(しらとうめ)をお祀りする母公堂。息子である役行者のことをひたすら心配し、この地まで追いかけて来たそうです。
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危険な修行場である大峯山へ母が入らぬよう、役行者が里の人に頼んで建てた女人入山禁止の結界門。女人禁制はお母さんを守るためだったんですね。

 さて、近鉄大和八木駅で合流した私たちは、明日香村を横目に車で洞川温泉へ向かいます。吉野山へ向かう道と分かれて、カーブだらけの峠道を走り、いくつものトンネルをくぐり抜け、ようやく洞川の集落が見えてきました。かつて社内研修の講師としてお招きした、クリエイティブディレクターの銭谷明夫さんに紹介してもらったお宿は、創業500年の歴史を誇る花屋徳兵衛さん。大勢の山伏が一度に宿へ上がれるよう、道路に向かって開け放たれた縁側が、旅の気分を一気に盛り上げてくれます。

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「行者さん通り」に面した花屋徳兵衛さんの縁側。「講」と呼ぶ山伏のご一行が到着したら、ここにずらっと並んで足を洗ったそうです。
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屋外の解放感と室内の囲まれ感が同時に味わえる、不思議な感覚が満喫できる縁側。かつては行き交う山伏たちで活気があったのでしょう。

 通してもらったのは、二間続きの7~8人が雑魚寝できる広大なお部屋。近年の温暖化の影響で部屋にはエアコンが標準装備されていますが、洞川は標高800mほどの高地にあるため、この日は扇風機だけで充分でした。山の気配が色濃く漂う集落を歩くと、道の両側にずらりと並ぶ旅館の縁側と、豊かな湧水をたたえた手水鉢が続きます。周囲が暗くなり、吊るされた提灯にあかりが灯ったら、そこは幻想的な別世界に様変わり。役行者が従えたという鬼の夫婦、前鬼(ぜんき/夫)と後鬼(ごき/妻)がお出ましになりそうな、厳かな雰囲気に包まれます。

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お宿の心配りが隅々まで行き届いているお部屋。しかし男二人で寝るにはあまりにも広い。つい本気の枕投げをしたくなります。
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この時間の男湯はこちらの「後鬼の湯」。前鬼の妻が睨みを利かせる中、ガラス戸全開の半露天風呂にしてくつろぎました。

 かけ流しの温泉は無色無臭で、つるんとした手触りの湯が、日々の仕事で疲れた身体とやさぐれた心を優しく包んでくれます。お湯を堪能したら、次はお待ちかねの夕餉のお時間。地元で採れた香り高い新鮮な野菜や、清冽な水で仕込んだ豆腐、生命力あふれる川魚をいただくと、体内に新たな気が満ちて魂まで浄化されるようなきがします。もちろん、すっきりした味わいの地酒がもたらす、ただの錯覚ですがね。

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絢爛豪華なお夕食。ここに鮎の塩焼きが加わります。地元のお酒(銘柄を忘れてしまいました…)との相性はバツグン。
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今回の旅をコーディネートしてくださった、銭谷さんのご親戚が経営する「銭谷小角堂」。黄色の陀羅尼助丸が目印です。

 翌朝は暗いうちに起き出して、温泉で身体を清めます。その後、暖簾を掲げておられたご主人の十七代目花谷芳春さんとあいさつを交わして、修行代わりのお散歩へ。早暁の修験道の里には川のせせらぎが響き、空気はさらに透明感を増して、凛とした独特の気配が満ちていました。〝なんちゃって山伏〟はたったこれだけのことでも、修行した気になるのです(笑)。

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温泉で温まった身体がギュッと引き締まるような、早朝の行者さん通り。気温だけでなく、空気そのものが都会とは違います。
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昭和8年に発見された面不動鍾乳洞の入口から望む、洞川の集落。奥に控えるのが大峯山、手前はモノレールの〝ドロッコ〟。

 こうして1泊2日の修行?を終えて、引き締まった心と身体になった〝なんちゃって山伏隊〟は、厳粛な面持ちで大和八木駅に戻ってきました。ところが車から降りた瞬間に襲って来たのは、梅雨明け直後の刺すような日差しと、圧を感じるほどの熱波。この強烈な洗礼を受けた我々は、なんちゃって山伏から秒で俗人へと転生し、いそいそと駅前の居酒屋へ向かうのでした。 

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青い空と夏山の濃い緑、日差しを照り返す白い石灰岩、そしてエメラルドグリーンの清流が満喫できるみたらい渓谷。洞川温泉から歩いて訪れることもできます。…さすがに今は暑いか(^_^;)。

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