
みなさまこんにちは。風光社グループ代表の細川です。
今年の夏休み、私は長野県松本市の乗鞍温泉へ行ってきました。ここは冷涼な気候、白濁した温泉、美味い蕎麦という一般的な豪華3点セットだけでなく、コアなマニアが全国からわらわらと集まって来る場所でもあります。それは乗鞍温泉郷と乗鞍岳への登山口となる畳平を結ぶ、距離20.5km、標高差1,260mの乗鞍エコーライン。標高2,716mのゴールまで走ることが許されているのは、観光バスとタクシー、そして自転車のみ。こんなコースを自転車で登りたがる、〝坂バカ〟と呼ばれる人々にとって、ここはまさに聖地なのです。

私も随分以前からこの聖地に引き寄せられてきたひとりですが、さすがに寄る年波には勝てません。いまは自転車のレース活動から完全に身を引き、楽しさを追求するファンライドに徹しております。ところが、十数年ぶりに新たなロードバイクを購入して乗ってみると、これがなんとも楽しい。軽さ、剛性(硬さ)、しなやかさという相反する要素を、高いレベルで融合させた最新世代のロードバイクは、漕ぎ出した瞬間に圧倒的な加速力と素晴らしい巡航力を体感させてくれます。まるで空飛ぶじゅうたんで前へ進むような異次元の感覚。こうなると坂バカは、実際に坂道を登って自分とバイクの実力を試してみたくなるのです。


そこで〝坂バカの聖地乗鞍〟にて、本気のタイムアタックを敢行することにしました。ここでの自己最高記録は、19年前に樹立した1時間12分。しかし昔と違って、いざスタート地点に立つと老朽化した身体が耐えられるのか、ちゃんとゴールまでたどり着けるのか、ゆうべは飲み過ぎたしな、とかネガティブな事ばかりが頭の中を駆け巡ります。ところが実際に走り出すと、若かりし頃とあまり変わらない(と思われる)スピードで、ぐんぐんと坂を登れるのです。意外な展開に「ひょっとすると、これはイケるかも」という考えが頭をよぎったその瞬間、激しい動悸と息切れ、そして鋭い頭痛が襲ってきました。標高が高く空気が薄い所で、しかもオーバーペースで走っていたら、さもありなん。酸欠状態に陥ったオッサンの一丁上がり、と相成りました。


吸っても吸っても肺、というか血液に酸素が届かない感覚のまま中間地点を越えると、一気に傾斜がきつくなります。とりあえず軽いギアに切り替え、回転数を上げて脚の筋肉の負荷を減らさねばなりません。仕方ないので回転数を上げると、今度は脈拍数も同時に跳ね上がり、心臓と肺が一緒になって「もうやめて」の大合唱。ただ、坂バカとしてはここでやめるわけには参りません。酸欠のせいで恐らく万単位の脳細胞を失っているんだろうな、とか考えながら登って行くと、森林限界を越えて周囲の視界が一気に開けてきました。真横に沸き上がる雲を見ながら、覆いかぶさるように迫って来る乗鞍岳へ近づいて行きます。


空気はさらに薄くなり、真夏というのに吹く風は冷たく、体温とともに体力とやる気を奪われる中、今度は猛烈な空腹感と倦怠感が襲ってきました。これは持久系のスポーツに多い、極度の低血糖によるエネルギー切れの状態、いわゆるハンガーノックと呼ばれる症状です。このまま運動を続けると動けなくなるため、タイムアタック中ではありますがオヤツの時間としました。補給のためのゼリー飲料を飲み干し、再スタート。するとさっきまでの空腹感と倦怠感が嘘のように解消し、身体の奥からパワーが沸き上がってきます。まさに「ファイト一発!」。ここからはケイン・コスギさんのご尊顔を思い浮かべながら、なんとかゴールに到達できました。やれやれ。


ゴールして写真を撮っていると、突如現れたのは20年近くお付き合いがある山田さん。乗鞍の様子をリアルタイムに発信する「乗鞍大雪渓 Web Site」の管理人で、今回もさっそく撮った写真をUPしてくれました(私が写ってる記事はコチラ)。とりあえず数年ぶりの再会を楽しんでいると、ハタと思い出しました。


そうそう、結局タイムはどうなった?と時計を見ると、表示はなんと1時間47分。全盛期から35分ものビハインド、というあまりにも遅すぎる結果でした。機材の進化の速さに驚きつつも、身体の劣化の速さはそれをはるかに凌駕する、と思い知らされたある夏の日の出来事でした。

