みなさまこんにちは。風光社グループ代表の細川です。
やはり今年の夏も暑いです。暑さもここまで度が過ぎると、ちょいとそこらへお出かけする意欲がまったく湧いてきません。しかし世間は夏休み、家でじっとしているのもなんだかもったいない。それこそ避暑地でなくともどこか涼しい所は、と考えてたら思いつきました。「そうだ夏山、行こう」
断層の動きによって三重県側は急峻な、滋賀県側はなだらかな地形が特徴の鈴鹿の山々。伊勢平野から眺めると、その山容の荒々しさがよくわかります。
山の上が涼しいのは、標高が100m上がると気温が0.6℃ほど下がるため。平地の気温が36℃ならば、標高1,000mの山頂だと30℃になります。また、風速1mにつき体感温度が1℃下がるので、山頂の風速が10mだとすれば、気温20℃の世界が体感できることになります。まあ、風速10mなんて風が吹いたら登山どころではありませんがね。今回は日帰り可能な1,000m級の山を検索し、いくつかの候補の中からある重要な条件が決め手となって、滋賀と三重の県境にある御在所岳に登ることにしました。
御在所岳があるのは、岐阜県の関ケ原付近から鞍部となる三重県の加太(かぶと)まで、標高約800mから1,200m級の山々が連なる鈴鹿山脈。私の世代で鈴鹿と言えば、やはりF1グランプリ。音速の貴公子アイルトン・セナを筆頭に、ナイジェル・マンセル、ネルソン・ピケ、後藤久美子と「事実婚」のジャン・アレジ、そしてプロフェッサーことアラン・プロストなどなど。ここ鈴鹿で行われた日本GPでの、セナとプロストの因縁が生んだ「がっちゃんこ事件」は…という話は、まあ置いておきましょう。
この山の標高は1,212m。主に花崗岩(かこうがん)で構成されるため、浸食によって露出した巨岩、奇岩が切り立った崖のあちらこちらに鎮座していて、独特の雰囲気を醸し出しています。万一に備えて登山口のポストに入山届を投入し、いよいよ出発進行。登山道を進んで行くと、最初に姿を現すのはこのルートのシンボルである巨大な砂防ダム。このダムをくぐって、土石流が運んできた岩だらけの川沿いを伝って行くと、ほどなく四合目の藤内小屋へ到着。
ここから道は二手に分かれます。片方は一般的な御在所岳の登山道のひとつ、裏道ルート。もう片方はやや険しいものの、〝ゆるぎ岩〟や〝天狗岩〟を通る尾根筋のルート。体力自慢の我々は、迷うことなく尾根筋ルートを選択しました。が、登り始めると数分で「これ、ホントに道か?」状態に。壁のような坂道を木の枝や岩に付けられたピンクのリボンやペイントを目印に、両手を使いながらのクライミング。疲れてくると、つい目印を見失ってルートの確認に追われるなど、なかなか前(上?)に進めない。そんな状態で小一時間、なんとか森林から脱出すると高所恐怖症の方には恐らく耐えられない、見事な眺望が目に飛び込んできました。
ここからは尾根筋になるので、少しは楽に…と思いきや、激しい上り下りの連続パンチ。あえぎながらお目当ての〝ゆるぎ岩〟や〝天狗岩〟を見て疲れを癒し、確実に標高を稼ぐと御在所岳への分岐点となる国見峠に到着。ここからいったん下って沢をズルズルと滑りながら登って行くと、御在所岳スキー場のゲレンデに入ります。急斜面の草原を一歩一歩踏みしめるように歩き、登り始めてから3時間強、ついに山頂へたどり着きました。
山頂は机上の計算ほど涼しくなくてやや残念でしたが、アキアカネが舞う澄んだ空気を吸い込むと、これまでの疲労が一気に吹き飛びます。そしてこの時のために保冷ボトルへ仕込んでおいた赤ワインを、一気に口へ流し込む。すると乾き切った口の中を甘露の如きブドウの果実味が潤し、じわりと熱いアルコールが食道から胃へゆっくりと染み渡る。「いやあワインって、本当にいいもんですね」と、水野晴郎氏の声が聞こえてきそうです。まあ、若い方はご存じないか。
しばらくすると雷鳴が響きわたり、巨大な積乱雲が迫ってきました。ここが普通の山であれば、天候の急変に恐れおののく場面ですが、今回はこの山をチョイスしたある重要な条件が効果を発揮しました。そう、この御在所岳にはリフト&ロープウェイがあって、復路の安全・安心・安楽は担保されているのです。自力で下山もよし、万一の時には他力で下山も可能。人生におけるプランBの必要性を感じながら、わずか12分で下山を完了しました。パラパラと降り出した雨を受けながら我が身の無事を喜びつつ、空を見上げるとさっきの積乱雲はどこへやら。いつしか周囲には、真夏の太陽が燦燦と降り注いでいるのでありました。