みなさまこんにちは。風光社グループ代表の細川です。
外出時に直面すると、できるだけ避けたくなるものの筆頭である「階段」。海外では紀元前のローマ時代から、日本では約2000年前の弥生時代から、人が上下にスムーズかつ快適(?)に移動するための手段として使われてきました。
しかし、上下の移動には水平移動と違って追加で重力が作用します。自分の体重はもちろん、荷物も含めて。その苦痛を少しでも和らげるべく、先人たちは知恵を使いました。その成果のひとつが「エスカレーター」。一般社団法人日本エレベーター協会によると、現代と同じくステップが配されたエスカレーターの第1号は1900年、ニューヨークの高架橋に設置されたものだそうです。ちなみにエレベーターの歴史はそれよりはるかに古く、紀元前236年に遡ります。考案したのはかの有名なアルキメデス。もちろん動力は人力で、そう聞くとなんとなく映画「テルマエ・ロマエ」のシーンを彷彿とさせます。
そう、そもそも階段の最大の存在理由は上下移動。しかしローマ時代と違って、現在では階段の機能やデザイン、それによって作られる空間の利用など、階段そのものが楽しく思える工夫が凝らされるようになりました。さらに最近の研究では、「階段を上る」こと自体が健康効果の高い運動のひとつとして、クローズアップされています。昨年の秋にイギリスのグラスゴー大学を中心とした研究チームがまとめた論文では、10段の階段を1日6~10回(階段は1階につきおおむね20段なので、3~5階相当)上っている人は「慢性閉塞性肺疾患、2型糖尿病の発症リスクに関して、最大の有益性が得られた」と発表。さらに何もしない人と比べて、心筋梗塞や心不全などの心疾患が約12%、脳卒中も約11%低下したと報告しています。
自分の身に置き換えると、階段を歩いた方が動悸、息切れ、めまいなどをかえって誘発しそうなイメージですが、どうもそうではないようです。かくいう私も、かつては階段を使ったトレーニングを(嫌々)採り入れていたことがあります。それは京都の東山三十六峰のひとつ、阿弥陀ヶ峰(あみだがみね)の山上にある豊国廟(とよくにびょう・ほうこくびょう)の石段を駆け上がるというもの。まさに「だるい・苦しい・気持ち悪い」の三拍子揃った変態メニュー。とはいえ、この当時は確かに心肺能力や敏捷性が養われていたような気がします。もう二度とやりたくはないですが。
また最近は階段を使ったスポーツイベントも増えてきました。先月、滋賀県の東近江市で行われた勝ち男、勝ち女を379段の階段で競う「太郎坊CHALLENGE」もそのひとつ。階段レースの特徴は、限界近くまで追い込むと突然動きが緩慢になる点にあります。恐らく本能的に身体を守るため、脳が筋肉を動かすスイッチを勝手に切ってしまうのでしょう。登り始めてしばらくすると呼吸が乱れ、徐々に乳酸が足の筋肉に蓄積されて起こる独特の粘りが動きを阻み、さらに腕の筋肉も同じく粘って振れなくなります。こうなると手摺に頼ろうとしてもそれすら覚束ない。息も絶え絶えのまま、前傾しつつ坂道をうごめく様子は、もはや見た目も動きも立派な〝ゾンビ状態〟と相成ります。
お友達に誘われてチームで参加したこの大会、受付に近寄るといきなり名前を呼ばれて「えっ?」。なんとそこには、同業の広告会社の社長を務める中村俊一氏のお姿が。「どうしてここに?」とお聞きすると、彼は交通広告の販売だけでなく、あべのハルカスを駆け上がるステア・クライミング世界選手権のイベント運営をサポートしたり、階段を使った健康増進の取り組みを進める一般社団法人階段普及促進協会を立ち上げるなど、根っからの「階段マニア」と判明。
とはいえバリアフリー全盛のこの時代、どちらかというとあまり歓迎されない階段に着目し、その役割を再定義して賑わいや健康増進という、人に役立つインフラへ進化させる発想と行動は見事としか言いようがありません。階段という機能とスペースを活用して、いかにして上り下りする人を健康にし、明るく楽しい空間にするか。駅の広告を提案する私たちにも、まだまだ知恵を出す余地はありそうです。