みなさまこんにちは。風光社グループ代表の細川です。
何度かこのコラムで紹介した、京都盆地の北西に鎮座する愛宕山。日本全国に900社を数える愛宕神社の総本山として、1300年にもわたって人々の信仰を集めてきました。そのような神聖な山ではありますが、昭和の初めの頃には全長2.1km高低差639mと、当時東洋一のスケールを誇ったケーブルカーが走っていました。
経営していたのは、現在の京阪電鉄や京福電鉄などが出資した愛宕山鉄道。嵐電(らんでん)嵐山駅から登山口となる清滝までは鉄道で、清滝からは山頂近くの愛宕駅まではケーブルで乗り継ぐという路線でした。それまで参拝者は、急こう配の参道を約2時間かけて登っていましたが、ケーブルだとたったの11分。便利になった愛宕駅周辺にはホテルや遊園地、スキー場などが設けられて夏は避暑、冬は雪遊びを楽しむ人々で賑わったそうです。
けれども第二次世界大戦末期の1944(昭和19)年、戦時体制を受けて不要不急線に指定されたことから、金属供出命令によりレールを撤去され廃線となりました。命綱であるアクセス路を取り上げられたホテルや遊園地も、同時に閉鎖。その後はまったく手を入れられず、100年近く日光や風雨に晒され続けた建物は、ゆっくりと朽ち果てながら自然に還りつつあります。ではそんな風景を心から愛し、自他ともに「廃墟マニア」と認めるお友達と一緒に、愛宕山の廃墟を紹介しましょう。
廃墟めぐりのスタートは旧愛宕山ホテル。もちろん、このスタートに立つにはまず山を登らねばなりません。登山口から鳥居をくぐり、きつい坂道を登り始めると右手に線路跡が見えてきます。まっすぐ山頂を目指す線路と離れ、参道は山肌を縫うように登ります。今回のツアー参加者は揃いも揃った体力自慢ゆえ、登るペースが早い早い。目的地のホテルや駅は山頂の手前にありますが、まずは愛宕神社へ向かって、廃線跡をめぐる道中の安全を念入りに祈願します。では、廃墟めぐりのスタート。
うっそうとした木立の中を進んで行くと、割れたガラスコップや皿、ビール瓶が散乱し始めなんとなく廃墟感が高まります。尾根のやや平坦な場所にあるホテルは、外観はほぼ崩れて当時の面影を想像するにはかなり無理がある状態に。昔は周囲の木々も手入れされていて、京都の市街地を眺めることができたと思われます。が、現在は木の枝が伸び放題で、ほぼ眺望がききません。まったく残念。
ホテル跡から先に進むと、徐々に視界が開けて大きな広場に到着します。ここでは「昼間でよかった」と心底思える地上2階地下1階建てのおどろおどろしい〝廃屋〟が出迎えてくれます。これがケーブル愛宕駅跡。建物の中に足を進めると、そこはまさに異世界の入口。ちなみにその瞬間、頭に浮かんだのは映画「13日の金曜日」でジェイソン君が斧を振り回すシーンでした。
ここからは廃線跡を辿って下山します。遠くにそびえ立つ京都タワーを眺めつつ橋を渡りトンネルを抜け、崩れた場所は迂回して、とかなりの冒険気分。ひとくちに廃墟といっても、廃線や廃屋、廃坑や廃村などそのジャンルは多岐にわたります。
この愛宕山鉄道跡が面白いのは、複数の楽しみが1か所で味わえる点にあります。ただ、土木出身の方にこの話をしたら「メンテナンスをしていないトンネルなんて、何の予兆もなく崩れますよ」とのこと。そう、安全確保はあくまでも自己責任。危ない橋を渡る時はもちろんのこと、老朽化したトンネルをくぐる時もじゅうぶん注意しましょう。