コラム

社長コラム
2022.07.09
奈良の歴史研究
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 みなさまこんにちは。風光社グループ代表の細川です。

 歳とともにどんどん取り柄が減ってゆく今日この頃ですが、とりわけまずい状況にあるのが視力です。以前(といっても中学生くらいまで)は両眼2.0と狩猟民族なみの能力を誇っていたものの、加齢とともに左1.0右0.7とまあまあ普通のスペックにまで成り下がっております。年齢を考慮するとまだマシともいえますが、最近はここにかすみ目も加わってどんどん活字が読みづらくなってきました。こうなるとつらいのが電車での読書。これまでごく自然に読めていた文庫本が、いまや眉間にシワを寄せたメンチ切る(=睨むの関西的表現)状態になっています。これはいけない。

 かつてコンタクトレンズを本気で考えたこともありましたが、まつ毛が1本入っただけでも涙ボロボロ状態になる人間が、眼球にレンズをはめ込むという恐ろしげな行為に踏み切れるはずがありません。仕方がないので、最近は目薬に凝るようになりました。

 そこまでしていったい何の本を読んでいるのか、と疑問に思われた方、ここからが本題です。今年の私のテーマは「奈良の歴史研究」。奈良といえば小学生の遠足くらいでしか行ったことがなく、歴史も古すぎて正直まったく興味なかった私の心を変えたのは、本屋の平台に積まれていたある1冊の本。それは荒山徹著「白村江(はくそんこう)」。律令国家の成立を目指す中大兄皇子や中臣鎌足らの奮戦ぶりと、群雄割拠する朝鮮半島情勢と背後に控える唐の存在、そして白村江の大敗に隠された真実とは!….と、手に汗握りながら一気読み。これがきっかけとなって、ニッポン人として奈良のことをもう少し学ばねば、と思いを新たにしたわけです。

白村江って〝はくすきのえ〟と習った気がするのですが、いまは〝はくそんこう〟なんですね。百済から落ち延びて再起を図ろうとした余豊章(よ・ほうしょう)、願いが叶わず残念無念です。

 続いて読んだのは坂東眞砂子著「朱鳥の稜(あかみどりのみささぎ)」。これはもう、イントロからしておどろおどろしい。しかも登場人物があまりにも多く、その関係が複雑怪奇。人物相関図をいちいち見なけりゃさっぱり前に進めない本ですが、持統天皇が詠んだ「春過ぎて夏来たるらし白妙の衣干したり天の香具山」の歌を引用し、史実とフィクションを織り交ぜた奇想天外なストーリーはホントに凄い。最近のうだるような暑さに参っている方にとって、この凍りつくような衝撃のラストシーンは一読の価値アリ、です。

藤原京(現在の奈良県橿原市付近)や大和三山、吉野などの細やかな風景の描写が秀逸。古事記の編纂を担った稗田阿礼(ひえだのあれ)の正体が最後に明らかになるなど、伏線も楽しい。万葉集の代表的歌人である柿本人麻呂が、くたびれた中年オヤジ風に扱われているのが哀れを誘います。

 とはいえ、このままではあまりにも後味がアレなので、もうちょっと普通の(?)持統天皇を知りたいなあ、と選んだのが澤田瞳子著「日輪の賦」。こちらはオカルトな「朱鳥の稜」と違って、大陸からの干渉を防ぐため、これまでの豪族による集団指導体制から天皇を中心とした中央集権体制を確立させようと、時には厳しく、時には優しい持統天皇の姿が描かれています。うん、こちらを先に読めばよかった。

夫である天武天皇が始め、妻の讃良(持統天皇)が継承した史上初の本格的な法律である大宝律令の制定。ここで定められた政治の仕組みは、明治維新を迎えるまで基本的に続いたそうです。班田収授法(はんでんしゅうじゅのほう)とか習いましたね。

 驚いたことに、これまで教科書で平面的にしか知らなかったこの時代の歴史が、それぞれ違う視点で書かれた3冊の本を読み解くにつれて、人物や背景が立体的に見えてきた気がします。また唐や高句麗、百済や新羅といった大陸の勢力から国を守りつつ関係は深めたい、という当時のこの国の立ち位置と、地政学的な観点から奈良という土地の重要性もよく理解できました。おかげで、重要な〝インフラ〟だった大和川の好感度も急上昇⤴(個人の感想です)。歴史はいろんな側面から眺めないと、その本質はわからないものですね。はい、奈良の歴史は本当に面白いです。

「日輪の賦」の 人物系図。私のアタマでは天智天皇と天武天皇、大友王子(おおとものみこ)と大海人大王(おおあまのおおきみ)がごちゃまぜに。ええと、大海人大王は天武天皇のことなんですよね?大津王子(おおつのみこ)は…。まあ、いいや。

 ところで、奈良の魅力は他にもあります。これについては別の機会に紹介しますので、乞うご期待!